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ご利益HEIGUN

イザヘイグン

 これまた随分前の話になるけれど、思い出深い、初ソロキャンプツーリング。

 まだ見たことのなかった瀬戸内海の奥深さ、厳しさ、美しさ。

 神様のご利益によって帰ってこれたと信じて疑わない41km。


 「最高にきれいな浜がある」そう聞いていて、しかしいつも遠くに見えていながら大型船の航路に阻まれて一度も訪れたことのなかった、いわば憧れの島。

 もう、行ってもいいころだ、と勝手に決めて島渡りを計画した。勝手にっていうかね、自分で決める以外に誰に決められるものでもないだろうけどね。

 そりゃ初めていくところだから、天気図や海図や水路誌を繰り返し眺めて準備した。やはり最大の山場はHEIGUN PASSの航路横断だろう(実はそれ以外のところが大変だったのだけど)。

 無理矢理日帰りできなくもないだろうけど、それでは余裕がなくなってしまうし、その「きれいな浜」でキャンプできることは調査済み。ならば、キャンプツーリングでいくのがいいに決まってる!

 

 今年の春ごろまでは、キャンプツーリングなんて面倒だって言ってたっけ。いつの間にかキャンプ道具をカヤックに詰め込んでの旅が楽しくなってきた。この秋だけで実に7泊もキャンプをやってしまった。もちろん車中泊はキャンプじゃないので含まずに。

 しかも、それもキャンプにはどちらかというと不向きと思われる小さなカヤックに買い換えてからのこと。どういう心境の変化だろう。オトコ心と秋の空。

 小さなカヤックに荷物を詰めるなら、荷物は小さく分ける。しかも、細長いほど入れやすい。そんなコツを掴んでくると、だんだん荷物が増えてくる。

 「オレって、パッキングうまいんじゃねー?」なんて調子にのっていろいろ詰め込むと、そりゃ当然密度が高くなる。その結果、必然的に重くなる。その重さがうらめしく思えるようになるなんて、この時はまだ予想していなかった。

 

 さて出発地の近くに前日入りして車中泊。夜は道の駅を吹き抜ける風で車が揺れた。目覚めた朝も風が強いようだった。朝のうちは晴れ間が広がり、ぽかぽか陽気。

 出艇地に赴くと、ベタ凪の美しい海が広がっていた。それが冒頭の写真。瀬戸内海でもこのあたりはとてもきれいな海が広がっている。秋になるとますます透明度が高くなってくるようだ。

 今回の荷物は、一泊の予定なのに水4リットルにスポーツドリンク2リットル、米2リットル、ビール1リットル・・・。その他テント、シュラフ、マット、カセットガスにストーブ、食器、4日分くらいの食料そして着替え、その他もろもろ。加えてミニテーブルまで。

 そしてこの日はキャンプ地で使うつもりのサンダルを忘れてきたので、履いてきたハイカットのブーツまで持って行かなきゃなんない。これが一番場所をとった。

 荷物をコンパクトに詰め込んで、漕ぎ出したのは既に11時。出艇には遅い時間だけど、狙い通り、かなり速い追い潮に乗って、時速10kmを超えるスピードで目指す島へバウを向けた。

最後の島

 南向きの潮流に乗って、水路の出口で東からの潮流にぶつかる。その境目のこの島の前では、潮流の影響かそこそこの波が立っていた。

 島の前でゴウゴウと音を立て崩れる波と戯れつつ、今回初横断のHEIGUN PASSへ。左右を見渡すと、一艘の大型船が左から来ているのみ。これはラッキーだ。

HEIGUN PASS

 自分が航路にたどり着く前にその大型船は右へ抜けていった。他に影響のありそうな船は来ていない。時速は相変わらず8km/hを超えている。GPSのMOVING AVERAGEは8.5km/hくらいを示していた。

 波は2m程度と結構ある。外洋のような周期の長いうねりではなく、瀬戸内海特有の高周波で振幅の高い波。どこが「波の高さ0.5m」やねん、とツッコミを入れつつ、バウが跳ねた波飛沫を浴びながら島を目指した。

 風と波は左の方から吹き抜けている。潮流も左から。若干フェリーグライドの角度を作り、しかし船が来ていないので、割と余裕を持って最短コースを抜け航路を漕ぎきった。風は5m/sほどもあろうか。結構強い感じがする。

航路を振り返る

 スタートしてから6.8kmを55分。航路横断もあったのに、かなりのハイペース。一旦上陸して昼食をとることにしたが、艇を岸に上げるのが重くて閉口した。ひと息ついて今来た航路を振り返る。写真のようなバルバスバウだけを載せた船が通過したり、その他貨物船などもたくさん抜けていった。渡ったときはたまたまラッキーだっただけで、ここは大型船がかなり頻繁に往来する航路であるらしい。簡単な昼食を摂りながら、航路がどの辺だったかと観察してみた。

 一番心配していた航路横断を難なくこなしてしまったのでホッとした。しかしここから先が核心部だったということにはまだ気づいていなかった。辿りついたのは島の北東、キャンプ地は島の南西。風裏の西周りで行けば問題なかったはずなのに、当初の計画どおり東周りで行ってしまった。

 

 昼食地点から漕ぎ出すと、向かい風、向かい潮、波は左舷から。見渡す限り白波が崩れている。島の各所にある岬のような形状のポイントではさらに荒れていて、目の前で崩れられるとかなり面倒くさい。波の高さ0.5mじゃなかったんかいって何度も悪態をついた。

 それでも時速6km~7kmくらいのペースを保ちながら進むことができた。相変わらず波と風はヘンな方向からやってくるが、艇の性能のおかげで針路を保ちながら進むことができた。この波と風の中でもバウの先端を行きたい方向へ簡単に回せるということが大きな安心をもたらしてくれた。以前乗っていた簡単に回されて簡単には回せないあの船だったら早々にリタイヤしてしまったかもしれない。

 そのうち波の中を漕ぐのが面倒になってきて、昼食後1時間ほど、距離にして5km程度漕いだところで一旦上陸。上陸して見上げる島の森は本土のそれとは違って広葉樹が多い。というか殆ど広葉樹のようだった。昔からのありのままなのかな、などと暢気なことを考えた。

 そして今後のことを考える。だんだん波が高くなっているように見える。なぜだろう?と地図を眺めると、ふとあることに気付いた。この風の向きでは、今まではこれでも風裏だったんだということ。瀬戸内海をまっすぐ吹き抜けてきた風が、ここから先は遮るものなくこの島にブチ当たってくるだろう。だから、徐々に波が高くなっているんだ、と。瀬戸内海十把一絡げで波の高さを予報してもらいたくないもんだ。確かに出るときは凪いでいたけど、そこも瀬戸内海、この荒れた海も瀬戸内海。この先が思いやられる。

 

 上陸できるところはたくさんある。もしものときはあっさり諦めることにして、先に進むことにした。波は相変わらずだけど、よく観察すると向かい波の成分に混じって追い波もあることに気付いた。その波をうまく捉えると、時速7kmペースで進むことができた。

 そのうち大きな集落が見えてきた。港の防波堤の前では、波の高さがさらにアップ。3mはあっただろうか。岸へ向かう波に防波堤で反射された波が合わさってかなりの高さの波になっていた。短い周期でバウが登りそして音を立てて水中に落下する。思い出すのは大歩危の高いウェーブ。それをシーカヤックで抜けているような感じ。大歩危と違うのは川ではないところ。いくら抜けても瀞場もなく、ただただ瀬が広がり、川ではないので前方へも流れていない。

 まだ十分なスピードで漕ぎ進めてはいたけれど、この先どうなっているかわからない。心配性の虫がもしかしたら対処できなくなるかもよと囁いて、この先へは行ってはいけない気がして、やむなく上陸することにした。バウを岸に向けた。まだ、コントロールできる。今のうちが逃げ時。陸へ向かう波を捉えて滑降しながら岸へ。港の端っこに上陸させてもらった。

 時刻は午後2時。さてここからどうしたものか。

おばあちゃん

 スプレースカートとPFDを脱いで落ち着いたところで集落を眺めると、おばあちゃんが座っていた。挨拶をして、お店の位置を聞くと、なんと案内してくれるという。おばあちゃんについていくと集落の人々が「お孫さんかね」と声をかけてくる。

 一番大きな店はJAだったようだが、土日は店休日のようで、結局集落の端から端まで700mほどおばあちゃんと話しながら歩いていった。たどり着いたのはある酒店。

 

 「この島は広葉樹が多くていいですね」なんて話すと、実は事情が違ったようだった。この島は、昔はミカンなどの農家がたくさんあり、段々畑が島じゅうに広がっていたそうだ。今となってはその面影がほとんどない。

 

 買い物を済ませて元のところに戻ってくる。おばあちゃんとお別れして、今後の身の振り方を考える。目指すキャンプ地は島の裏側。あと5kmの距離だが、この先がどうなっているかわからない。今目の前に広がっている波頭の崩れる荒れた海よりもひどいだろうことは予想できる。この波を漕ぎ進むのは行けるとしてもやめておくべき。

 ケータイで天気図を見ると、この先風が収まる気配もなく、風向きもしばらくそのまま。夜に向けて風が強くなり、どうも明日には若干収まるようだった。

 風裏の島の裏側を見てみたくなった。きっとベタ凪だろう。陸路では、標高80mほどの山越えで2.2kmの距離。史上最大のポーテージ?も視野に入れつつ、風裏になるキャンプ地へ向かってみることにした。

 

 着替えてキャンプ道具をまとめた。夜中に強くなるという風で飛ばないようにカヤックをロープで固定した。ザックでもあればいいのだけど、こんなとき、小分けにした荷物がうらめしい。ブーツを包んできたWXTexのバケットがあったのでこれに荷物を詰め込み、肩にかけていくことにした。水道はあるらしいので重い水は置いていくことにした。山越えをサンダルで歩けば足を壊すもとだった。この日ばかりはサンダルを忘れKEENのブーツを持ってきていたことがラッキーだった。

ウッシッシ

 ザックに入れて腰で担げばきっと大したことがない重量だろうけど、肩にかけて荷物を運ぶのは思いのほか疲れた。坂を上り、峠を越えて下って行って、浜に近いところに牛がいた。

 さて浜についた。予想どおり風裏となっておりベタベタ凪。美しい海が広がっていた。キャンプ地の浜からすぐ脇はそこそこ荒れていた。この岬を境にして凪の海になっているのだろう。誰もいないキャンプ地にさっさとテントを張って荷物を中に入れ、キャンプ地を観察してみた。トイレもあり、シャワーも水が出た。これ幸いと思ったが、水道に「飲用不適」とある。なんと。水置いてきたじゃないか。まぁ時間もあることだし、取りにいくことにしよう。ということでまたカヤックのところへ戻った。

 

 ついでに一回目に持って行かなかったその他の荷物もまとめた。二回目の山道は既に暗くなっており、ヘッドランプの明かりで無人のキャンプ地へ向かった。

 暗くなったからか、こぶし二つ分程度の巨大なカエルがたくさん、一定間隔で道路に出てきていた。うっかり踏まないように気をつけながら浜へ戻った。

 さぁ食事、というところだが、なんだか食欲がなく、ビールとおつまみだけで終わらせた。暗い海を眺めながらビールを飲んでいると、ムカデが歩いていた。そしてそのうち雨が降ってきた。傘もいらない程度だけど、ここで濡れると寝るときに面倒だ。早々にテントに戻り、翌日の道程を心配しつつ早めの就寝と決め込んだ。

牛タンカレー

 朝は(あくまでも潮汐の都合で)ちょっと遅めに起床。前日の夜にあまり食べなかったので、朝から牛タンカレーにした。牛を見たからではない。

 歯を磨いたり顔を洗ったりして海を眺めていると、この美しい海の写真を撮りにこられた地元の方と思しき方。昨日の顛末を話すと、「灘じゃけぇ荒れるんよ」と。ほうほう。灘ってサンズイに難って書くもんね。そういうことか。関心している場合ではないが、勉強になった。風裏を通ってまっすぐ長島方向へ航路横断して帰ることも検討した方がいいだろう。

 

 もしかするともう一泊するハメになるかもしれないし、とりあえずテントはそのままにして、貴重品と最低限パドリングに必要な荷物だけを持って再度山を越えて集落へ降りた。昨日寄った酒店へ再び立ち寄り、買い物+挨拶をしてカヤックのところへ戻った。

 朝は風と潮の方向が逆なので、転流までしばらく待つことにする。しかしいつでも漕ぎ出せる準備を先に済ませておいた。そして海を眺めた。相変わらず白波が一面に見える。浜にある、神社の「のぼり」がバタバタと音を立てて風になびいている。こんな「のぼり」は前日にはなかったと、今思えばそう思うのだが、このときは特に意識していなかった。

 この日いっぱいは風は同じ方向・同じ強さ。翌日の予報では、同じ方向・風速2倍。ってことは、この日に帰れなかったら翌日も漕げないだろう。

 そのうち雨がぱらついてきた。晴れの予報だったはずなのにどうしたことか。益々気が萎えてきた。

 

 その雨に合わせて、地元の人がさっきの「のぼり」に駆けつけてきた。カヤックを置かせて頂いているので恐縮して「邪魔になりませんか?」と声をかけたら、「邪魔にはならんけどてごうてくれたら助かるのう」と。「てごうて」は山口弁で「手伝って」という意味らしい。その場では文脈から理解するしかなかったが、お邪魔虫がお役に立てるならそれはいくらでも協力するに決まってる。

 雨が降ってきたので、朝にせっかく立てたのぼりを下ろすのだそうだ。なんでもこの日は神社のお祭り。太く長い5mほどもある竹ざおにくくりつけられた大きなのぼり。立てるだけでも結構な重労働だろう。いくつもあるのぼりをひとつずつ下ろしていく。漁師さん達も集まってきてみんなで協力して下ろす。「あのにいちゃんは誰かいね」なんて声も聞こえてくる。作業をしながら漕いで来たことを話した。

 作業が終わって、竹ざおを肩に担いで去っていく皆さん。「神様を手伝ってくれたけぇご利益があるで」「気をつけてかえりんさい」その言葉が心強かった。

 竹ざおを持っていったあとで、最初に声をかけてくれた方が戻っていらっしゃった。「これは何ていう船かね」「これで漕いで来たんかね」「てごうてくれたけぇ無事に帰れるよ」山口弁に明るくないのでうまく再現できないけれど、なんだか本当にご利益がありそうな気がしてきた。

 お別れしたあと、再び白波の立つ海を見つめる。まずはこの島の南西端をまわれば風裏。ここを乗り切りさえすればあとは何とかなる。

 

 とそのとき、風が収まってきた。あれあれあれ?あの白波はどこへ?もしかして、ご利益!?これなら行ける。今なら行ける。準備は既に整っている。あとは船を海に下ろすだけ。今を逃すと一生帰れないかもしれない。

 うそのようなご利益に漕ぎ出したときにはGPSの電源を入れるのを忘れていた。白波は収まったと言ってもまだまだ波はある。岬を回るまでは気を抜かずに。

岬が見えた

 しかし気を張って漕いでいるわりにこの5kmの道のりはあっけなく終わり、徐々に波が収まってくる。ほどなくして、見えた見えた。あの岬を回れば、黄色いテントが見えてくる。思わず顔がにやけてくる。ここまでくれば(しばらくは)安心。なんだかゴールにたどり着いた気になる。でもまだやっと半分ですから。

カヤック

 やっとこの景色にカヤックを入れて写真が撮れた。静かな青い海とカヤック。きっと日が差せばとんでもない美しさなんだろう。予定では、前日のうちにたどり着いて、ここでロール練習しようと思ってたのに、すっかり予定が狂ってしまった。

 のんびりと昼食を摂って、テントを畳み、再び重量級カヤッキングの始まり。登山のときはこんなに必要ないのになんでシーカヤックだとこんなになっちゃうんだろう。荷物を10kgに抑えたら、荷物+シオンの重量はポリ艇単体の重量と変わらないではないか。そうすれば、荷物をつんだまま肩に担げるということだ。今度から軽量化にこだわってみよう。

奇岩

 おだやかな南岸を進む。ここから急に写真が増えるのは、それだけ余裕の表れなのだろう。奇妙な岩や断崖絶壁など、人工物の少なめなこちら側の景色の方がいいみたい。

八島

 八島はすぐそこ。ここから八島への間は航路がないので、漕いでいけばすぐ辿り付けるだろう。予備日もあるので時間的には行っても差し支えないだろうが、しかし翌日は風が強くなるらしいので、今回はパス。もし帰れそうになかったら、そのとき考えよう。

振り返って、岬

 振り返ると特徴的な岬が遠望できる。もし前日にこっち側を漕いでいたら、この景色がだんだん近づいてくるのを楽しみながら来れたのに。

断崖絶壁

 凪いではいるが、時折風が吹いてくる。始めは向かい風、ほどなく陸風、そして追い風になる。どうも扇状に吹いているらしい。きっと、島を越えて風が吹きぬけてくるのだろう。この扇状の風に何度か会った。島の山の形状とリンクしているようだ。

あの岬を越えると

 前日にお世話になった集落のほかに、こちら側にも集落がある。集落の前でもう一度天気をチェックしておこうと思ったが、ケータイの電池残量が少ないようだ。2日で切れるとは何事だ。使えねぇ。これからは予備電池も持っておく必要がありそう。

 

 これで写真が最後なのにはやはりワケがあって、岬の西端をまわったときから強い向かい風。ここでは既に航路が視界に入っていて、たくさんの大型船が往来しているのが見える。その航路も、手前航路と奥航路の二本があるようだった。

 始めに通ってきた島が見えた。航路には船がたくさん。往路では追い潮だったが、今度は逆潮向かい風。行くか戻るか、針路を長島方向にするか、どうするか。波はあるが白波が崩れるような状態でもない。これならいける。PFDのポケットに入れておいたウィダーinゼリーで10秒チャージして徐々に航路に近づく。

 まず2艘が左から。そして右から。遠く左の方にあと数艘の大型船が見える。それらが通り過ぎるまで徐々に航路に近づき、曳き波に向かって全速力。って言っても時速4km程度でしか進まない。これでは航路の途中で力尽きてしまう。力を抜いて、向かい波の利用できるところだけ使ってスピードアップ。

 およそ5kmほどの航路横断なのに、今度はそこだけで1時間漕ぎ続けた。もう波が高いとか低いとかどうでもよかった。進んでいるのかどうか景色を見ただけではよくわからなかったけど、GPSのスピードメータは確実に進んでいることを示してくれたので安心できた。

 

 やはり島の近くまで来ると二方向からの潮流がぶつかり楽しそうなウェーブを作っていた。この波は安心できる。でも乗りには行かなかった。やっぱり疲れていたのだろう。

 やっとここまで漕いできて、島の裏で手を止めた。パドルを握り締めていた右手が開きにくい。ここまで来れば安心。艇が重いのでゴロタの浜へは上陸せず、しばらく漂いながら休んだ。

 振り返ったあの島はすぐそこに見えた。ちょっと前まで遥か遠くに見えていたのに。ただ地図を見て同定していた島と実際に行ったことのある島では心の距離が随分と違うらしい。

 

 あとは凪の海をまったり。ここはいつものツーリングコース。ゆっくりゆっくり、いろんなことのあった一人旅を終えることを惜しむように漕いだ。

 

 書き出すときりがないほど得られるものがたくさんあった濃くて濃くて濃すぎるツーリング。何か一皮剥けたかな。確かにゲルコートが一部剥けたけど・・・。

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コメント

  1. けんとOo。.(^。^)y-~ より:

    やっぱり…海ってすごい(^^;
    わたしの中では川とは比べものにならない。
    川が簡単!とは言えないけど、こんなにいろんな状況に影響されることはないような…。
    この記事を読みながら、海の怖さを再認識したりして…。
    やっぱり怖がり…ですね(^^;

    怖くない海をちょっとづつ体験して、ちょっとづつ海の良さを知ったら変わってくるんだろうか???
    そこまでして海を漕ぐ???
    なんて自問自答しながら読みました。
    ご利益あって良かったですね~。
    ご利益使ったから、今まで流れ星にお願いした分はなしってことで…(笑)

  2. quickturn. より:

    >こんなにいろんな状況に
    リバーカヤックとシーカヤックをゲームに例えると、
    それぞれアクションゲームとシミュレーションゲーム、
    でしょうか??
    リバーカヤックはその行為自体が面白くて、シーカヤックは
    戦略を立てて侵略していくのが・・・ちょと違うか。

    どちらにしても、成長するにつれてフィールドが広がるのは
    一緒ですね。

    >ご利益使ったから
    また一から流れ星にカネカネカネ・・・(T^T)クゥー

  3. 蘇化子 より:

    お疲れさまでした。素敵なレポート楽しませて頂きました。ワタクスが初めて小豆島にたどり着いた時を、思い出しました。その時は、ロールもできない状態でしたが、まさに緊張島倉千代子状態でした。

    小豆島へは2人で行ったのですが、相棒には「あんな荒れた海を渡るなんてぇ~!」って、罵られましたが・・・。

    島でキャンプをしているときに、地元の漁師さんさんらしき人の釣り船を押し出すのを手伝ったら、良く朝我々が出航しようとしている時に、船の持ち主の奥さんが、でっかいスイカと酢をふりかけたとても大きな美味しいおむすびを持って来てくれました。神様の御利益のお話はありませんでした。

    綺麗なところで、誰にでもそう簡単に行けそうにないのがまたとっても魅力的ですね。

  4. quickturn. より:

    >ワタクスが初めて小豆島に
    そのうち楽々に行けてしまうようになるかもしれませんけど、
    初めてだとヨロコビもひとしおですね。
    かなり日が経ったのにまだ鮮明に覚えています。
    きっとこのことは何度も思い出すんだと思います。

    >でっかいスイカと酢をふりかけた
    「酢イカ」ではなかったんですね。。。

    >綺麗なところで、誰にでもそう簡単に行けそうにない
    簡単じゃないところが、たどり着いたときの感動に
    つながるんでしょうね~。

  5. 蘇化子 より:

    「酢イカ」・・・来夏作ってみましょうか?これに蜂蜜と塩胡椒にサラダオイルを混ぜて、更にりんごやバナナをカットして・・・。冗談で作ってみて意外に美味しかったりして・・・。

    「てごをしてつか~さい」は岡山県北でも我々の親の世代は日常語として使ってました。いや懐かしい響きでした。
    今度カヤックを運ぶときもてごをしてつか~さい。

  6. quickturn. より:

    >酢イカ
    焼酎に入れて「酢イカ割り」なんて・・・冗談で作ってみたら予想通り不味かったりして・・・。

    >「てごをしてつか~さい」
    もちろんてごします!
    きっとご利益があります!!
    岡山でもということは、山口弁というより中国地方に広がる言葉なんでしょうね。

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