朝、電話で目が覚めた。
電話が鳴っているので取ろうと思うが、体が動かない。
「こ、これが金縛りか!」
とは別に思わなかったが、シュラフに包まっているから手が出てこないんだと思った。
しかし、ヘンだ。
面倒だからシュラフは体の上にかけただけだった。
だから、シュラフのせいで体が動かないはずがない。
動かない手をもそもそ動かし、どうやら自分を留めているらしいジッパーに手が届いた。
ジッパーの錆び具合からして、どうやら、ジャケットのジッパーのようだ。
学生時代から愛用のMA-1風1k円ジャケット。
安いので、ジッパーも錆びてきて、寒中作業着として継続使用中。
安い癖に暖かいのだ。
だから今回も、寒いのでコイツを着たまま寝ていた。
しかし、今は普通の着方とは違う。
なぜか、袖に手を通さずにジッパーを閉めた状態になっているのだ。
どうやったらこの格好になるのか。
誰が俺をこんな格好にさせたのか。
謎は深まるばかり。
混乱した状態から始まった南桑の朝。
外へ出てみると、霧がかかってはいるが、天気はよさそう。
肌を突き刺すように冷たい空気。
もう、冬が始まっているようだ。
前日の風邪はどこへやら。
鼻水がかなりひどかったのだが、もう全く止まってしまった。
ここに来るとどんな病気も治ってしまうのではないかとさえ思う。
新南桑橋から錦川を眺めると、目の覚めるような真っ青な点が移動していった。
かわせみに違いない。
その時カメラを持っていなかったことを後悔した。
こんな街中(え?)にもかわせみはいるんだ。
急いでカメラを取って来たが、既に姿は見えなかった。
橋の上からまっ平になった河原を眺める。
夜中は気付かなかったが、もう河原へ降りるスロープの工事は終わり、車は降りられるようだった。
しかし、雨の予報の日は決して降りてはいけない。
上流に雨が降れば、今のこの南桑の河原はすぐに水没するのだ。
朝7時半頃。和田さんがやってきて、薪を集め始めた。
河原には薪は一切のこっていないが、橋の裏側など、燃やすほどたくさん溜まっている。
これなら、この冬は暖を取るのには十分だろう。
8時過ぎ、集合場所の道の駅「ピュアラインにしき」へ向けて出発。
途中、錦川の透明度にハッとする。
国道を離れ、裏の道で錦川を眺める。
あまりにも透明。
南桑では、水力発電所の水のせいかここまで透明ではなかった。
そして紅葉もきれい。
錦川は今が紅葉のベストシーズンか。
集合場所には、既にfusai.♂さんがいらっしゃっていた。
程なくして、和田さん、けんとさん、Aさん、N本さんが登場。
和田さんも含め、総勢6人。
この季節、こんなに人が集まるとは、正直思っていなかった。
カヤックに乗り込んで、やはりスプレースカートをはめるのに苦労した。
スプラテックスデッキがいかに使いやすかったかということか。
今までらくらくはめられていたのに、今度のやつは、グローブをしていると、はめられなかった。
もう、スプレースカートをはめるだけで暑くなった。
みんな先に行ってしまっているのでプレッシャーを感じる。
追いつけるから待っていなくていいんだけど、多分待ってるハズ。
なんとかスタートできて、瀞場で暑くなった体を冷やす。
ひっくり返って眺めたその世界。
また宇佐川かー、宇佐川はもういいよ・・・。
毎度のことながら、そう思っていたのに。
毎度のことながら、「これが宇佐川か!」と感動を改める。
水中の世界は、とんでもなく美しい。
ずっと水中を眺めていたい。
ロールするのがもったいない。
なぜ水中で呼吸できないのかと、人間であることを後悔する。
それは大げさ。
水中だと、カメラの水滴をふき取らなくていい。
だから、今回は水中の写真ばかりになった。
ひっくり返って、シャッターを押し続ける。
呼吸が苦しくなるまで水中を見続け、魚を追いかけた。
起き上がると、顔が痛かった。
そういえば、水は冷たかった。
いくつかの瀬を越えた瀞場。
N本氏が水中を指差しながら、こちらに合図した。
水中を覗いてみると、たくさんの魚。
日本野鳥の会にカウントを依頼しても5分はかかると思われる数。
どこからこんなにたくさんの魚がやってきたのか。
感嘆し叫びながら起き上がったので、ぶむぬぉーという声になった。
この日の宇佐川は、
出市で0.66mと、水量は少なかった。
非常に浅く、何度か降りて歩かなければならなかった。
そのたびにスプレースカートをはめないといけないと思うと、とても辛かった。
特に、沈脱レスキューが億劫になってしまうのがよろしくない。
小春日和のこの日、まだまだそんなに寒くなかった。
きちんとした装備さえあれば、まだまだ遊べそうだ。
今年のカヤッキングはまだ終わらない。