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筋肉デジャヴュ

写真は本文とは関係ありません

 何か新しいワザを練習していると、ふと、デジャヴュのような感覚があることがある。あ、この体の動き、どこかでやったことがある、そう感じるときがある。これを既視感と呼んでいいのかどうかわからないので、既動感、筋肉デジャヴュ、とでも言おうか。筋肉が既にその動きをやったことがある感じがする、ということで。

 最初は、何だったのかさっぱりわからない。何故、その筋肉デジャヴュがあったのか見当がつかない。でも、やったことがある動きだっていうことはなんとなくわかる。きっと、筋肉が覚えているのだ。いや、筋肉は記憶なんてしないと反論されるに違いない。だから実際には記憶しているのは脳なんだろうけど、しかし脳内の仮想筋肉が記憶していることには違いない。ということで、勝手にそれをヴァーチャル筋肉、と呼ぶ。


 生まれてこの方こんなにスポーツをやりたいと思ったことはないのだけど、カヤックだけはなぜか続いている。ボールが飛んできただけで緊張してしまうほどの運動オンチだったのに、練習することによって自分にひとつひとつできることが増えていくっていうスポーツの楽しさを、カヤックをやって初めて知ってしまったからかもしれない。

 それでもやっぱり進歩は遅くって、もう何年もやってるのにできることと言えばちょびっとだけ。こんなにショボいレベルだけど、それでも、スポーツを知らなかった私がここまでやれるんだっていうのは自分でも知らなかったことで、人間は外見だけで判断しちゃいけないということを身を持って体感しているところである。

 で、今興味を持ってやっているのはご存知のようにフリースタイルのさわりとかロールとかなんだけど、どうやれば実現できるのかさえ理解できない新しいワザを、とりあえずこんな感じかと脳内で見当をつけて練習を始めて、でも全くできずに何ヶ月も、時には何年も悶々としながら練習を続ける。もちろん全く初めての動作は大変だ。やったことのない体の動きを脳で考え、ヴァーチャルマッスルも考え、体が試しに動いてくれて、その結果をヴァーチャルマッスルにフィードバックし、脳が合っているのかどうか確認をする。そうやって、初めての動きをなんとかやり遂げようとする。脳もヴァーチャルマッスルも体もみんなちょっとずつ試行錯誤してデータを蓄積していくのである。

 一方で、多分初めてだろうと思われる動作であっても、なんとなくやったことのあるような感覚を覚えることもある。それが、冒頭で定義した筋肉デジャヴュである。でも、その動作、見かけは全然別モノなので、脳は当然のごとく全く別のモノと解釈している。しかし、筋肉デジャヴュがあるということは、ヴァーチャルマッスルが何かを訴えようとしているということであると、なんとなくわかる。なんかしらんばってん、何かしたことあるごたねーっていうやつである。

 ヴァーチャルマッスルは脳内にありながらも脳の思考力とは異なるプロトコルを用いているようで、この時点では、何を教えてくれようとしているのかはさっぱりわからない。しかし、脳の方も脳というだけあってバカではないので、一生懸命にヴァーチャルマッスルの言いたいことを理解しようとする。

「ほら、あのときのアレだよ、えーっと、何て言えばいいのかなぁ、ほら、」と、まどろっこしいヴァーチャルきんにくんの言葉に「そんなんじゃわからん!もうえーわい!」と諦めてしまうのも選択肢のひとつ。苦労して練習することから解放され、そして素直なヴァーチャルきんにくんは、もう黙ったままでいてくれるだろう。

 しかし、それでも諦めずしつこく練習を続ければ、さすが学習能力を持った脳、なんとヴァーチャルマッスル語が理解できるようになるのだ。難解だったことがつながり、理解できやり遂げられる瞬間がくる。そしてそのときこそ、今まで散々やってきてできなかったことが突然できるようになる瞬間である。「なんだ、スイープストロークと同じだったんだ」と、やっと理解でき、そこでやっと自分の技術になる。脳と仮想筋肉と筋肉の調和が生まれ、思ったとおりの動作を筋肉がやり遂げてくれるようになる。

 なお、今回はややこしいので筋肉の成長については省略したが、脳と仮想筋肉が一致しても、体の筋肉がそれを実現するだけの力を持っていなければどうしようもない。

 殆どの動作は、昔やったことのある動作の応用である。だから、その昔やったことのある動作が正しい動作だったかどうかによって、それらの応用の集大成たる「新しいワザ」の実現に大きく影響される。つまり、ヴァーチャルきんにくんの記憶が間違っていれば、思い出してくれてもどうしようもないってことだ。基本は大事というのは、ここに帰結するのである。

 多分、昔からずっとスポーツに慣れ親しんできた人は、ヴァーチャルマッスルと脳を直接結ぶインタフェースが確立されていて、新しいワザであってもヴァーチャルマッスルの持つ豊富な記憶の中から類似する筋肉シーケンスを瞬時に取り出し動作を成し遂げることができるのだろう。もちろん多少のズレもあるだろうし、既存の動作の応用であってもその応用方法は新規かもしれないので、数回の練習は必要かもしれない。しかし、私が通信プロトコルを物理層から何年もかかって構築しなければならないところを、既にアプリケーション層も完成しフレッツ光より早いスピードで筋肉と会話できる力を持っている。つまり、私が何年もかかって習得したワザをたった数回の練習でマスターしやがるのだ。

 きっと、それが師匠の言う「筋肉思考力」なのかな、などと考えつつ、台風の影響により南から湿った暖かい妄想が流れ込んだ影響でやや風当たりが強くなりそうです。熱中症にご注意下さいとかわけのわからないことで締めました。

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